2013年8月15日木曜日
市川海老蔵 第1回自主公演ABKAIを観る
市川海老蔵の第一回自主公演ABKAIの舞台
(渋谷シアターコクーン8/3~18)に、足を運んだ。
初日から13日目、仕込みがよければ、
味がしみこんで美味しくなっている頃のはず。
さて?楽しみな舞台である。
席に座って周りを見回すと、
さすがの海老蔵人気。チケットは完売のようだ。
夏休みということもあり、渋谷という場所柄もあり、
歌舞伎座に比べると年齢層は若い。
「歌舞伎を知らない若い人たちに見てほしい」
という海老蔵のメッセージは、まずは、届いているのかもしれない。
歌舞伎十八番の『蛇柳』は、
能がかりの重々しい幕開きには意表をつかれた、
しかし、藤間勘十郎の振付・演出による舞台は、
やがて華やかな舞踊場面に変化を遂げ、
歌舞伎らしい様式美の世界へと導かれ、幕切れに…。
歌舞伎の深い味わいを感じとれた作品であった。
注目の新作歌舞伎、『疾風如狗怒涛之花咲翁物語』。
以前から「日本の昔話を歌舞伎として仕立ててみたい」という
海老蔵の思いに、宮沢章夫の脚本というベースがあり、
宮本亜門の演出という味付けがあり、
いままでに見たことのない舞台に仕上がっていた。
とくに最後に、花が次々と咲いていく様子には、
誰もが気持ちよく花見気分を味わえたのではないだろうか。
海老蔵の舞台には「観客と一体になりたい」という思いがあふれている。
それがもっとも伝わってきた幕切れだった。
絶妙に用意されていた「カーテンコール」によって、
役者と観客の間はさらに近いものになり、幕は閉じた。
海老蔵は三役を演じ分け、そのうちの一つが白い犬という設定。
日本昔話の素朴なストーリー展開のせいだろうか、
すっかりリラックスして観ていた。そして、終わってみれば、
「シロ」の健気さがこちらの心の中にじんわりと広がってくる。
伝えたいものがソフトに伝わる、という狙いは成功しているのでは?
金とピンクの配色が目を引く、シンプルな装丁の「筋書」、
家に帰って改めて開いてみると、
海老蔵のなみなみならぬ覚悟のようなものが伝わってきた。
井上ひさしの『手鎖心中』(文春文庫)の解説で、新作物を演じる気持ちを
昨年亡くなった勘三郎が次のように書いている。
「歌舞伎座のあちこちに棲んでいる私の父とか名優のおじさんたちとかの
魂魄が、こ~んなに顔をしかめて(笑)、どっと近寄ってくるのがわかる。
いえ、こういうのはまた別なんですよ、でもこれも面白いでしょ?なんて
言って、さっさとそこを通り抜けるんですけどね」
海老蔵の挑戦はまだ始まったばかりである。
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