真夏の日差しが肌に痛いような一日だった。
銀座線上野駅を降りて、目指すは、東京藝術大学大学美術館。
上野が好きだなぁ、と思うのは、
点在する美術館と共に大きな樹木がたくさんあるから。
とくに、こんなに暑い日は、
木陰というものの存在に大いに感謝する。
ベンチでちょっとゆっくりしてみるのもいいな…
などと思いながら歩いていく。
目指す美術館までは、駅から結構距離があるので、
ついそんな誘惑にかられる。
やっと着いた。
東京藝大の敷地内も、あふれる緑が美しい。
「夏目漱石の美術世界展」では、
新たなる漱石の一面に深く触れることができた、と思う。
文豪・夏目漱石(1867~1916)は、
美術に精通しているだけでなく、
美術をこころから愛している人だったのだ。
小説の中に登場する絵画作品の多さ!
33才でイギリスに留学した漱石が、
これほどまでにたくさんの芸術品と出合っていたとは
驚きだ。
また、日本に帰ってきて、小説を書く一方で、評論も書く。
その中には美術評論もある。
「芸術は、自己の表現に始まって、自己の表現に終わるものである」。
その人独自の感性が感じられるものに対してはとても好意的に。
だが、その反対であれば、たとえ相手が画壇の大物であってとしても、
辛辣な批評を容赦なく展開し、それは小気味よいほどであった。
そして、漱石自身も40才を過ぎた頃から、自分で絵筆を執る。
亡くなったのは50才。
あまりにも短い、と思える一生の中で、多くのものを
我々に遺してくれた。
これまでも、いろいろな漱石に出会ってきた。
これからも、まだまだいろいろな漱石に出会えるような気がする。
美術館を出てから、来た道とは反対方向に歩き出した。
漱石と親交のあった正岡子規が住んだ町、根津方面へ
ふらりと、歩いてみたくなったから。
途中、和菓子屋「桃林堂」で、母へのおみやげを買う。
「小鯛焼」、二口三口で食べてしまえるくらいの大きさである。
言問通りまで出ると、
目の前に古い町家を改装したカフェを見つけたので、
入ってみる。
明るい窓辺に座り、ミュージアムショップで買ってきた本を開く。
漱石の小説、また読み返してみよう…。
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