2013年12月8日日曜日

日本橋で、越川禮子さんの講演「江戸しぐさ」を聴く























12月というのに、日中はぽかぽかと暖かい日がつづく。
日本橋のたもとの大銀杏はまだまだ見事な黄色を保ってくれていた。


今日は、三越前のビル「YUITO」の5階ホールで、
越川禮子さんの講演「江戸しぐさ 商売繁盛の哲学」を聴いた。



 


会場に入ってこられた越川禮子さんは
明るい紫のスーツにブーツ、という姿。
よく通る張りのある声で話し始められた。

「あゝやっとお目にかかれた」。
越川禮子さんのご著書との出合いは10年くらい前のこと。
「江戸しぐさ」にはまりこみ、店舗での新人教育にも取り入れたことがある。
以来、「講演会があれば伺いたい」と思っていた。

年齢も知らないわけではなかった。
しかし改めてそのお姿を拝見すると、
「88歳ですよ」という言葉に、思わず感嘆の声をあげてしまった。
「トシを言わないと若く見られて損をしちゃう」のだそうだ。







1971年、越川さんは、マーケティングの視点から、
「超高齢社会をどう生きるか」というテーマでアメリカを取材した。
その結果が『グレイパンサー』という本にまとめられている。

しかし、アメリカで見つけた、この「共生の思想」が
もともと日本にあることを知り、夢中になっていく。

当時、芝三光(シバ・ミツアキラ)氏が伝承していた「江戸しぐさ」である。

「江戸しぐさ」は、口承によって各人が身につけていくものであり、
書くことによって安心してしまうことを芝氏は戒めている。
その芝氏から許しを得て、パワフルに書くこと、伝えることを続けてきた
越川先生のような存在なかったら、と考えると恐ろしい。
今でもすでに失われてしまった部分も多いのかもしれない。

「江戸しぐさ」は「商売繁盛の哲学」と言われるが、
江戸に住む町衆のほとんどが商人であったためにこのように伝えられる。
武士階級ではなく、一般の人々の間に備わっていた思想ともいえるものである。



「傘かしげ」「こぶし腰浮かせ」などで有名な、
公共広告機構によるマナー広告のポスターの絵が、
日本画家・山口晃氏によるものであるということを、
今日初めて知った。

山口晃さんのあの温かみのある絵!




















先頃、横浜美術館で開催された「横山大観展」で拝見し、
すっかりファンになり、本も買ってしまった。

あの巧みなつくりのポスターに注目が集まり、
一気に世の中に「江戸しぐさ」が広まったと言ってよい。
しかしまた、ポスターに使われたがために、
「江戸しぐさ」は単に江戸のマナーであるかのような誤解を生んで、
一過性のブームで終わったような気がし、残念でならない。


電車内でのマナーはますます悪くなっている、と嘆く声は多い。
再度、山口さんのポスターにはご登場いただけないものだろうか。
それとともに、多くの「江戸しぐさ講」をつくり、
江戸しぐさを語り継いでいかなければ、と思う。


江戸人が身につけていたこの思想を、
次の世代へと引き継ぐためには、もう一つ、大切なことがある。
越川先生ご自身が本日色紙に
「きっかけは江戸しぐさ、気がつけば陽明学」と書き、
「葉隠」の思想の中に共通点があることを見つけた、
と話もされたように、根幹となる思想をしっかりと押さえ、
この分野の研究を深く進めていくことだ。








日本橋という場所柄なのであろうか、
「着物割引」という制度が効果があるのか、
会場には着物姿の方が多かった。
そのことを越川先生も、とても喜んでくださった。
着物姿は会場の空気を変えると思う。



























会場入り口には、しつらえられた「冬至」の盛りもの。

大切にしたいものはいろいろある。
伝承のよさをつくづくと感じさせられた、日曜日の午後だった。




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