訪れたレストランは、近鉄・桑名駅からタクシーで約15分、
「六華苑」という庭園・建物を誇る地の中にあった。
30年もの間、何度も桑名へは足を運んでいるのに、
「六華苑」という名を耳にするのは、今日が初めてだった。
あとから聞くと、長く三重県に住んでいても知らない、という人が多いらしい。
でも、このような文化財は皆に愛され大切にされていくべきであると思うので、
せめてここに書きつけておきたい、という気持ちになった。
「六華苑」は、山林王と呼ばれた桑名の実業家、
二代目諸戸清六の邸宅として大正2年に竣工したそうである。
揖斐・長良川を望む約18,000㎡余の敷地内に、
洋館と和館、蔵などの建造物群と日本庭園で構成され、
創建時の姿をほぼそのままとどめている貴重な遺構である。
洋館と和館は、平成9年に国の重要文化財に、
庭園は一部を除き、平成13年に国の名勝に指定されている。
桑名の地は、戦災と伊勢湾台風で街が壊れ、
桑名城の城下町としての姿を、今は見つけることがむずかしい。
そのような地に、今も残る「六華苑」の姿を見つけることができたことは、
私にとって、姪の晴れ姿を目にすることと同じくらい嬉しい出来事だった。
まず和館内を見学する。
細部にこだわりすぎず、おおらかなつくりの座敷が心地よい。
たぶん、外の眺めを取り入れて完成する、という考え方なのであろう。
引き算の美学を感じる。
庭園は、池泉回遊式。
和館北側の内庭は、茶匠・松尾宗吾の好みが反映されているという。
今日訪ねたのは夕刻であったが、日中、茶会が開かれていたらしく
着物姿の人々が片づけの最中であった。
和館からつながっている洋館部分は、ジョサイア・コンドルが手がけ、
地方に残るコンドルの唯一の作品として注目されているという。
中に入ってみると、意外に広々しているが、
外からの印象は、可愛らしいショートケーキのよう。
堂々たる日本庭園と威厳のある和室のつくりとは対照的で、
広大な敷地の中で、一種のアクセントになっているように感じられた。
洋館の上層階から眺める庭の景色は、
同じ庭であっても和館からの眺めとはまた違った印象である。
すぐ間近にある小さなものを愛でて自然と一体化する在り方と、
彼方まで広がる自分の領地を眺める城主のような在り方と、
明治や大正の邸宅にはこの両方が混在していて、
このような住空間の中で暮らした人々の気持ちにももう少し接近してみたい気がしてきた。
このような住空間の中で暮らした人々の気持ちにももう少し接近してみたい気がしてきた。
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