久々に日本民藝館(目黒区駒場4-3-33)へ行くにあたって、
20年以上前に買い求めて本棚の奥にしまいこんでいた、
柳宗悦著『茶と美』(1986年講談社刊)
を引っ張り出し、読み返してみた。
宗悦は茶道にのめり込むことはなかったが、
茶道というものを評価していたことがよくわかる。
柳宗悦(1889-1961)が創った民藝館ではいま、
「茶と美ー柳宗悦の茶」というタイトルの展覧会(1/10~3/23)が
開かれている。
「高麗茶碗」と呼ばれる、朝鮮半島から入ってきた器、
かつては飯茶碗として使われていた茶碗を
侘び茶の創始者たちが好んで使ったように、
宗悦もまた、「大和茶碗」にはない美の力を
「高麗茶碗」に見つけ、かわいがっていたことがよくわかる。
展示されている粉引・刷毛目・井戸などの茶碗、どれもふっくらと温かく、
魅力的に見えた。
民藝運動の創始者、日用品にある美を見出した審美眼の持ち主ちして
だけけでなく、思想家としての宗悦の強烈な生き方に触れて、
衝撃を受けたのは、2011年9月に銀座松屋で開催された、
「没後50年 日本民藝館開館75周年―暮らしへの眼差し―柳宗悦展」
でのことである。
日本政府の朝鮮への武力弾圧と文化的同化政策を堂々と批判し、
文化という非暴力手段を駆使して行動した、と知った。
昨年(2013年7月)出版され、偶然にもすぐに出合えた本、
中見真理著『柳宗悦―「複合の美」の思想』には、
「理想社会の実現を求めて闘い続けた思想家」としての宗悦の姿が
浮き彫りにされている。
宗悦の多種多様な活動を貫く思想を「複合の美」の思想とし、
「多文化・多民族の共生が求められている現代世界に必要な発想である」
という著者の視点に共感を覚えた。
民藝館を出て、向かい側にある宗悦の自宅であった西館を見学。
近代日本を代表するほどの声楽家であった兼子夫人、
経済的に夫を支えた。
宗理(工業デザイナー)、宗玄(美術史家)、宗民(園芸研究家)
の3人の息子たち、いずれも才能を開花させている。
5人でテーブルを囲み談笑する写真が眩しかった。
西館の前に道をそのまま進み、右に折れたところに、
「駒場公園」の正門がある。
余談だが、正門の右手には「尊経閣文庫」の表札と門がある。
ここには加賀前田家の所有の文化財が納められているということは、
最近知ったばかり。
一般には公開されていないが、門は開け放ってあったので、
少し踏み込んで奥をのぞく。建物も素敵だ。
公園内に入れば、
加賀百万石の当主であった旧前田家の前田利為侯爵邸(洋館・和館)がある。
昭和25年に国の重要文化財としての指定を受けている。
化粧レンガやタイル張りのほどこされた洋館。
昭和4年築、イギリスのチューダー朝様式の豪華な館である。
洋館と隣り合わせに建つ和館。
昭和5年に外国人接待用に造られたという。
庭に面してしつらえられた、広々とした座敷が気持ちよい。
茶室などは、一般に貸し出しもしているらしい。
いつか使ってみたい、と思う。
3月にしては冷たい強い風が吹く日だったが、
複数の「美しい暮らしの跡」をみることができて、
心の方は、しっとりと潤っていた。
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