2月16日(月)、三菱一号館美術館で開催中(2/7~5/24)の
ワシントン・ナショナルギャラリー「私の印象派。」展を観た。
エイルサ・メロン(1901-1969)という一人のアメリカ人女性の眼を通して選ばれた
フランス印象派の小さな画面の絵画作品68点。
コレクションとしてまとめて観ることで、エイルサの優しい人柄や繊細な感性が
伝わってくると同時に、印象派と呼ばれる画家たちが生き生きと活動した時代の空気や
親密な交際のありようを感じさせてくれる内容だった。
19世紀末に生まれた「印象主義」の流れは、
20世紀のさまざまな芸術運動へとつながっていく。
今回の展覧会は、その一つの流れとして、「ナビ派」の、
その中でも「親密派」と呼ばれる画家たち、ボナールやヴュイヤールの作品を
数多く紹介することで、締めくくられていた。
「フランス的色彩」として憧れる深い色あいの組み合わせや装飾的な要素。
「親密派」の世界に、エイルサも惹かれていたのではないだろうか。
「私の印象派。」の、この幕引きのしかたにはとても共感できた。
「あなたはこの作品のどこに惹かれたの?」
「あなたはどの絵が好き?」
終始エイルサと言葉を交わしながら、会場を巡るような気持ちだった。
第1回の展覧会「マネとモダン・パリ展」を観たときの興奮は今も鮮やかだ。
「こんな美術館がほしかった!」。
それからも、展覧会に足を運ぶたびに、
中庭の植栽に季節を感じ、建物の重厚さや落ち着いた雰囲気を楽しみ、
展覧会のかげにある企画力や工夫された展示方法に心を躍らせながら、
美術作品をたっぷりと味わっている。
最近、美術館の活動を支援するサポーターとしての登録をしたため、
今日は「限定貸切鑑賞会」という時間内で、ゆっくりと鑑賞することができた。
期間中は、制限なく何回も友人一人を伴って来館することもできる。
最高にぜいたくで豊かな時間をプレゼントされた気分である。
2月17日(火)、横浜美術館で開催中(12/6~3/1)の「ホイッスラー展」へ。
ホイッスラーは、つねづね不思議な画家だと思っていた。
印象派周辺の画家として紹介されるが、印象派とは区分されている。
油彩・水彩・版画約130点を集めた今回の大回顧展は、
彼の全貌を知る好機、と思い、出かけた。
ジェームズ・マクニール・ホイッスラー(1834-1903)は、
印象派のモネ(1840-1926)などと同時代の画家である。
しかし、フランスやその周辺諸国で生まれた、印象派の画家たちと違って、
アメリカで生まれ、9歳のとき父親の仕事の関係でロシアへ行き、そこからまた
アメリカへ。その後、ロンドンとパリ、それぞれを往ったり来たりして暮らしている。
そうした彼の経歴が、アカデミズムに対抗する反骨精神は同じように持ち合わせながらも、
同時代の画家たちとは群れない孤高の画家としての道を歩ませたように思う。
しかし、新しいものを生み出したいという思いにおいて、
対象に抱いた自分の印象を大きく走るような筆触にのせたという点で、
「広い意味での印象派」に組み入れることができるのではないだろうか。
(絵葉書「赤と黒:扇」)
批評家ラスキンとの裁判やパトロンの言いつけにそむいて室内装飾を
手がけてしまった事件などは、ホイッスラーという人の情熱的な人柄を
物語るエピソードだろう。
2014年11月3日で開館25周年を迎えた横浜美術館。
丹下健三(1913-2005))設計の石造りのシンメトリーの建物は、
開館当時まだ何もなかったみなとみらい地区の中で、少し偉そうな顔をして
そびえ立っているように見えた。
しかし、周囲にたくさんの商業施設も増えた今では、
美術館は街の中心にあって街を見守るような役割へと成長しているように見える。
東京方面からも行きたくなるような魅力的な講演会活動をはじめ、
横浜市民のための各種の教育創作活動も活発に行われている。
これからの発展もまだまだ楽しみである。
2月19日(木)、東京都美術館で、「新印象派展」(1/24-3/29)を観た。
新印象派は、印象派のモネやピサロ等の用いた「筆触分割」という方法をさらに進め、
科学的研究も加えた「点描主義」の画家たち。
その作品約100点。12か国から集めたということだから、学芸員の努力がしのばれる。
スーラ、シニャック、リュスなどは新印象派としてよく知られた画家たちだが、
ベルギーの画家たちの間に広まり様々な展開を見せたこと、
スーラが31歳で早逝したあとシニャック中心に南フランスの地に集まり、
活動を始めたことなど、初めて知る新印象派の側面であった。
また、フォービスムの画家たち・マティスやドランの作品を
最後に掲げていることで、20世紀の美術へとつながる流れを
実感することができた展覧会であった。
(絵葉書:アンドレ・ドラン「ウォータール橋」)
東京都美術館は、前川國男(1905-1986)の設計により1975年に完成。
「トビカン(都美術館の愛称)のみどころ」というパンフレットが
出入口に置いてあることに、今回初めて気づいた。
Vol.2前川國男特集として、美術館を建築作品として楽しむための
手引きとなっている。
「前川建築を味わおう」という建築ツアーも企画され、
とびらー(アート・コミュニケータの愛称)が、
美術館を身近に感じてもらうための活動を行っているという。
最近、美術館はどこも、来館者と向かい合うための工夫を始めたらしい。
この変化は、私が美術館に通っている40年間のなかで、
ちょっと新しい、期待したくなる風である。
美術館は茶室に似て、設えた人の心に思いを馳せながら
できるだけたくさんのことを感じとれる、そんな空間であってほしい。
迎える側と楽しむ側との互いの呼吸が感じられるようになったとき、
美術館という空間も変わっていくのではないか。
そんなことを考えながら美術館を巡った1週間であった。
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