2014年7月7日月曜日

玉三郎の『天守物語』


梅雨あけはまだもう少し先のようだ。
今日も、しとしと雨が降ったり止んだりの
はっきりしないお天気だった。

今日の歌舞伎行き。
いつもとは少しテンションが違う。
「玉三郎の鏡花作品を一度観てみたい」
という思いが、ついに叶う日だからである。

時間の読み違いをして、
夜の部が開場する40分も前に着いたので、
木挽町通りの「樹の花」に入って、時間を過ごすことにした。





















昼の部は、古典の名作と言われる、2つ。
「正札附根元草摺(しょうふだつきこんげんくさずり)」と
「夏祭浪花鑑(なつまつりなにわかがみ)」。

夜の部は、新作歌舞伎の演目が並ぶ。
岡村柿紅作「悪太郎(あくたろう)」、
岡本綺堂作「修禅寺物語」、
泉鏡花作「天守物語」の3つである。








































市川海老蔵が団七・お辰を演じる「夏祭浪花鑑」は、
2013年3月に、テアトル銀座劇場で観ているので、
その時の舞台と比較しながら観るのも面白いかもしれない。

しかし、坂東玉三郎が主演・演出する「天守物語」も、
今回が12回めの上演だが、評判が高い。

昼の部にするか夜の部にするかと迷いつつ、
インターネットの座席予約の画面を開くと、
夜の部は、前から3列目に、ぽつっと1つだけ席が空いている。
これはもう私のために用意された席だ!
と思って予約してしまった。



16時、開場時間の歌舞伎座周辺。
そわそわ、わくわくとした空気が渦巻くこの時間は何とも言えない。













 
 
会場は満席のようだ。
玉三郎、海老蔵とくれば、
若いファンの姿も多い。

























「天守物語」の幕があがる。

姫路城の天守。
怪しい風がうずまいている。

玉三郎の富姫(とみひめ)登場。
広い会場にいる観客が一人が残らず舞台に引き込まれていく。
玉三郎の発するオーラは、やはり凄い。

幻想的で、不思議な世界の美しさ。
それは作者・泉鏡花が狙ったものであり、
玉三郎の感性による演出が重なり、
独特の舞台になっている。

音声ガイドの解説を聞いた。
「人間でないものに人間の愚かさを語らせる」というのは、
他の作品でも見られる、鏡花の手法だという。
そのテーマは、人間でないものを演じられる、
玉三郎というが演じ手がいてこそ、
強く胸に響いてくるのだと思う。

玉三郎は、歌舞伎から離れた「演劇」や
様々なジャンルの「舞踊」「音楽」などに対する、
独創的な試みを続けているが、
ひょっとすると、玉三郎自身の中にあるテーマはいつも、
庶民と共にあること、弱者の側に立つこと、
すなわち「歌舞伎らしいもの」、なのかもしれない。
今日の舞台を観て思った。





















新しい歌舞伎座で初めて上演された「天守物語」。

3列目の席を確保できたことは本当にラッキーだった。
美しい演者たちを間近で見られたことで、
観劇の喜びは一層大きくなる。

帰り道、玉三郎の富姫の姿のポスターを何度も目にした。
その度に、胸の中に感動の波が戻ってくる。

これまでにない観劇体験だった。


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